八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.54


【掲載:2015/05/29(金曜日)】

やいま千思万想(第54回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

[人が舞、語り、移動する合唱の世界]

 コンサートにはそれぞれにスタイルというものがあって、それに倣(なら)って演奏することで成り立っています。
演奏する者も、聴く者も、歴史的に受け継がれてきたそれらのスタイルを前提に両者が音楽を楽しみます。

 一人の歌い手や楽器奏者はステージの中央で演奏しますね。それらにバックが付いてドラムやキーボード、ヴァイオリンといった共演者が加わればステージ後方に並びます。
大抵は大きな会場で、どの場所で聴いても同じ音響と音質で提供できるよう「PA(ピーエー)」と呼ばれる電気音響設備を用いるのですがそれらの器機が奏者の間に並ぶこともあります。
クラシックの演奏会では独唱・独奏の後ろにピアノが配置されますし、時にはオーケストラがバックに並ぶこともあります。
 合唱では、ステージ前には指揮者がいて、舞台左手から右側に向かって、音域の高い方からソプラノ、アルト、テノール、バスと音域の低い方へと並ぶのが普通です。
時にはその配列を音響的な配慮から入れ替えたりすることもあるのですが基本的には、指揮者が手前、合唱団が奥に並びます。

 しかしこれに当てはまらないステージも存在します。
オペラやミュージカルがそうですね。オペラではオーケストラはステージ手前の一段低いところ「オケピット」と呼ばれる場所で演奏されますし、オーケストラの代わりにテープなどによってスピーカーから音楽が流れてくることもあります。

 今私がこだわって舞台作りをしている演奏会があります。
「シアターピース」と呼ばれるもので、演奏者の行為(演技)を中心に、ステージのみならず客席や通路を含む劇場空間全体を活用しようとする作品演奏です。
先日は東京・浜離宮朝日ホール、そして来る6月28日には大阪・いずみホールでの演奏会でそのシアターピースを上演。
 作品は私と共に長きにわたって組んで活動する千原英喜氏が作曲した宮沢賢治の世界。
岩手県花巻市にある成島毘沙門天の五月の祭日に、母親たちが子どもの病気平癒(へいゆ)を祈願して参詣(さんけい)する様子を描いた「祭日」、そして賢治がこよなく愛した北上山地の種山ヶ原を題材にした曲「種山ヶ原の夜の歌(異伝・原体剣舞連)」。
 これらの舞台で合唱団員は太鼓を叩き、歌いながら登場しますし、ステージ上では剣舞を踊り・歌い、芝居をするといったパフォーマンスが行われます。
聴衆はホール全体に充満する音響と、シーンごとに変化する照明によってこれまでとは異なった合唱世界へと誘われるよう演出が施されます。

 シアターピースとは、耳と目だけでなく体全体で音楽を感じて頂く演奏様式。
空気を揺さぶる、ライブならではの演奏法です。
 東京の聴衆の方々の最初の驚きが、微笑みの表情へと変化していく様子は小気味良さをも感じさせていただいて充実の喜びを味わいました。
八重山での演奏を想像してしまうのですが、さてどのような反応になるのでしょう?ワクワクする私です。





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