八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.60


【掲載:2015/08/27(木曜日)】

やいま千思万想(第60回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

[さまざまな音世界 音律の話(その6)]

 音楽の話、その中でも普段気にならずにいる「音律」について書いています。
音楽のかたちや音楽の好みは国、民族、地域によって、また時代によっても大きく異なっているもので、それぞれに独自の魅力を放っています。
その魅力の違いは、音律(いわゆるドレミと呼ばれている音階音の相対的な関係を厳密に規定したもの)によるもので、歌に限らず、楽器にも、作曲スタイルにも多大な影響を与えてきました。
 ヨーロッパの中世を規定したものは「ピタゴラス音律」でした。そして次の時代となったルネサンス時代に規定となったものが「純正調」という名前の新たな音律。
その「純正調」の牽引(けんいん)役を担い、その後しばらく音楽を支えたのが三度音の響きだったのですね。ケルト人が楽しんでいたとされる三度の純粋の響きが時代を「純正調」へと導いたのです。

 さて、この時代を生み出したのは音楽の進化だけだったわけではありません。いや、本末転倒になってはいけませんね。時代の背景が音楽をも変化させた、進化させたと言うべきでした。新しい時代への渇望、それは中世の人々がその時代の規範や世界観から抜け出したいとの欲求であり、その模範をギリシャ・ローマの古代文化に求め、再度見直すという気運の高まりの中で起こった、正に[再生・復活]と言う意味の「ルネサンス」だったわけです。

 「純正調」で用いられる音階(「ドレミファソラシド」ですね)では「ピタゴラス音律」の音程も勿論含まれているのですが、決定的な違いは三度音「ミ」と六度音「ラ」、そして七度音「シ」の三つの音にあり、それらを修正した三度音程による純粋の響き(最も心地良く、濁りなく美しい響き)が次なる音律の時代へと導いたのですね。
 それは、時代が求めた音楽のスタイルが中世の好みから変化したということでもあります。単声音楽(モノフォニー)から始まった音楽が、複数の独立したメロディーを重ねるといった様式(ポリフォニー)へと発展し、そのスタイルが長く(300年程)続き、充分に味わい尽くして人々は新しい世界へと扉を開きます。
 変化した聴き手の好み、それは更なる美しい調和の響きのハーモニーであり、新しい様式(ホモフォニー)への発芽でした。

 「純正調」の魅力は何と言ってもその美しい響きにあります。甘美といってよいその美しい響きが3度音程によってもたらされたのですね。
 「甘美な美しさ」という価値観は個人的な趣味嗜好によるものであることを知りながら言うのですが、この物理的な「うなり」ゼロの美しい世界はやはり格別です。
実は私、この「純正調」に私の演奏スタイルの基盤を置いています。

 さて、「純正調」は更に「倍音」「差音」という演奏上大切な事柄を発見し、そして次なる音律へと向かっていくのですが、ここで一旦西欧編は置き、次回には音律の比較という意味で日本の音楽を少し見てみようと思います。
(この項つづきます)





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