八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.108


【掲載:2017/09/08(金曜日)】

やいま千思万想(第108回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

この美しい国の色彩感覚をみがく

 幼い頃から「色」には劣等感がありました。
人前で色の名前をよく間違えたからです。
というか実際の色と名付けられた名前とが一致しなかったのです。思い起こせば幼い頃に親や兄弟、友人たちとの会話の中で色に関する知識を得ることを怠ったように思われます。
ですから、私は自らを「色音痴」と呼んできました。
しかし実は名前は言えないものの色の違いには敏感でした。
色とそれを感じる情感は鋭かったと私自身は思っています。色感による情動は深く、大きかったです。
人の色覚は無数の色の違いを識別できるということのようですが、それらすべて名前を呼び分けるのは不可能。特に私は分類としての色の名前、「色名(しきめい)」が出てこないのですね。

 日本の色については記紀(古事記と日本書紀)の時代〈七〜八世紀〉に「しろ、くろ、あか、あを」が記されていて、これが日本古来の「基本色彩語」とされます。(「基本色彩語」とは「人」としての色覚の普遍的な法則に基づくものとして、文化人類学者バーリンと言語学者ケイの1969年の研究発表以来定着)
この語は形容詞活用を持っていて「い」を付けて呼べるそうです。
「白い、黒い、赤い、青い」というふうに。

 日本人の感受性と創造力の反映である色彩感覚が盛期を迎える奈良時代の天平(てんぴょう)文化の頃、そしてそれに続く平安時代には、前述した四つの色は細分化して、多くの顔料、染料に基づいた色名が付けられました。
赤系では朱色(しゅいろ)、真赭(まそほ)、丹色(にいろ)、茜色(あかねいろ)など。その漢字、オンとしての響きに心も震えます。
私は「青」が好きなのですが、その青の種類も驚くほど多彩で日本古来から伝えられてきたものが沢山あります。群青(ぐんじょう)、紺青(こんじょう)、瑠璃(るり)、藍(あい)、露草(つゆくさ)、紫紺(しこん)などですね。
自然の風物の名前を借りての空、水、というのもあります。
それらは「色」という語が付けられて青系統の色名となります。
これらは日本を象徴する「日本の伝統色」となっています。

 現代では上の「しろ、くろ、あか、あを」に他が加わり、白と黒→赤→黄あるいは緑→青→茶→紫、ピンク、オレンジ、グレイと進化、11種の基本色彩語となっているようです。
その各色間の細分化も進み、文学的色彩表現で名付けたり、近世以降流行語を意識して作った商業的色名が現れてきます。
こうなってしまっては私の「色音痴」が一層進んで行くほかありません。

 音楽を色で感じる人がいます。
赤い音だとか、青い音だとか。
これは幼い頃の音と色との関連付けが関係していると思われるのですが、これもまた音楽の不思議、魅力に通じることかもしれません。
色彩感を磨くことは良いことでしょう。
しかし、固定的で、断定的な色と名前の結びつけは慎重にしなければなりません。
大事な事、それは色を感じて湧き起こった感覚をどのように味わい、いかに自身の豊かな情操とするかです。





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