八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.130


【掲載:2018/08/09(木曜日)】

やいま千思万想(第130回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

演奏家の仕事場はコンサートホールだけではない

 演奏家の仕事場はコンサートホールとは限りません。
時と場合により様々な場所が演奏場となります。
大きなオーケストラ団体では「定期演奏会」と称するその団体の「顔」、メインの演奏会があるはずです。
また、臨時に催される「特別演奏会」とか「○○演奏会」のように、それぞれの機会を示す名称による演奏会もあるかもしれません。
そして最近では街中に出て行っての「街角コンサート」も増え、それは室内でも野外でも行われています。
夕暮れから始まる野外コンサートは夜景に溶け込んで雰囲気も良く、夜風に当たりながら一時を過ごすという、とても幸せ感を味わえるコンサートです。

 私の団体は中規模なものです。
通常は室内オーケストラ20名ほど、室内合唱は30名ほどで活動します。
100名以上となる大きな団体よりは演奏する場所も演奏される曲目も小回りがきくというのが特徴でしょうか。
小規模ではカルテット(四重奏)、そして歌が四人という編成も有ります。
さて、そんな中で演奏をしていつも充実感と感動を呼び覚されるコンサートがあります。
それは「病院でのコンサート」。
私はそれを積極的に行うようにと団員たちに勧めています。もちろんこの演奏には出演料は頂きません。
演奏家である以上、何らかのギャランティーが発生することは今後の演奏向上、仕事に対する励み、生活の保障ということに繋がるのですが、
病院での演奏に対してだけは「ボランティア」を貫きます。
それは他とは異なる「感動」、音楽が持つ「偉大な力」、人が結び合える不思議な「奇跡」を頂けるからです。
私が指導する合唱団でそれを積極的に行っているメンバーがいます。
そのメンバーの呼びかけに応じて数名が加わり、いつも〈心に残る〉コンサートにしてくれているようです。

 私が初めて二週間にわたって入院をしていた病院でもコンサートがありました。
同業者の演奏を患者の立場で聴くのは初めてだったのですが、そこで聴き入る人たち(点滴用のスタンドを携えての患者さんが幾人もおられました。
その中に私も含まれていましたが)の本当に楽しんでいる様子を観て、一層このボランティア活動に対する思いが強くなりました。
介護施設では聴き手と同年代のメンバーが訪問してのコンサート。聴き終えて「勇気と夢を頂きました」と涙される。
定期的に緩和ケア病棟でコンサートを行うメンバーがいます。〈余命いくばくもない〉方々を前にして行うコンサートです。
ベットに横たわって聴き、また一緒に歌う患者さん、その様子に笑みを浮かべ、涙して見守る看護師、ご家族、医師、病院関係者。
人それぞれの人生が濃密に交錯(こうさく)する時の刻みです。
コンサートを聴き終え、間もなく息を引き取られる患者さんも。関係者からは「幸せな旅立ちになりました」との言葉。
全国各地の施設でコンサートが盛んに行われていると聞きます。より強く「音楽の持つ力」を発揮して頂きたいと心から願うものです。





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