八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.131


【掲載:2018/09/07(金曜日)】

やいま千思万想(第131回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

人間、年を取っていくのは面白い!です

 歳を取ってきたと思います。
30代の頃の私は猪突猛進的超元気でした。
40代から60歳になると、身体に幾つかの変調があったもののそれまでに興味があっても時間的余裕や機会に恵まれなかったスポーツに熱中します。
スキー、そして一日掛けて各地へ出掛けての山歩きや散策、またライセンスを取って海へと潜るダイビング(石垣島)に無我夢中です。
それらは本業であるコンサートやそのための練習、リハーサルに明け暮れていた時期と重なります。(きっと疲れた心身を癒し、元気づけるための治癒的思考からでもあったでしょう)
それにしても、感謝しなければならないことなのですが、私の身体は〔頑張り屋さん〕だし〔大病なし、風邪もかかりにくい〕健康体そのものでした。
先ずは生んでくれた両親に感謝、ですね。

 しかし、60歳を越える頃から色々と身体に変化が起こりました。
幸いにして基礎体力は弱まっていなかったようなのですが、徐々に身体の中では変化が起こり始めて〈衰え〉が始まっていたようです。
とにかく忙しさと、不規則な生活のなんと激しかったことか。自分でいうのもなんですが「超人的」行動でしたね。

 自明なことがあります。人間って寿命が延びてきたとはいえ、間違いなく終焉に向かって歩むものです。
その歩み、〈衰え〉は人それぞれに異なるとは思うのですが、確実に訪れます。
その備えをどうするかということなのですが、そもそも備えを考えた時にはすでに〈衰え〉が始まっているのかもしれないですね。

 振り返って、最近富に思うことがあります。それは、衰えて老いていくのもそんなに悪いものではないのではないか、ということです。
それどころか、もしかすればこれは進化ではないかと思われてなりません。
最近、酒が弱くなりました(若い頃に飲み過ぎた、ということがあるかもしれませんが)。
しかし飲む量は激減しましたが、酒を味わい楽しむことは以前に比べて格段に長けてきたように思います。
音楽も同様。昔は何時間も練習を続け、その後直ぐに本番に臨むという集中力極まりないこともできたものですが、最近は立ち詰めの練習には慎重になりました。
足腰の負担が大きくなったからですね。
しかしです、演奏に関して言えば、昔に比べて作品全体がよく見えて振れてますし、内容もより深くなってきたように思われます。
記憶力は衰えてきました。
さっきした事が思い出せない。言葉も思い出すのに時間がかかる。自分で笑ってしまうほど良く忘れます。
でも、何もかも忘れるわけではありません。感動の〈ときめき〉として覚えたものはそう簡単に忘れることはありません。
都合良く自分に合わせて〈忘れていく〉人も世の中にはいますが、忘れてはならずとの思いを持っての記憶は決して忘れるものではありません。
人間が歳を取っていくというのは、その忘れてはならない事を楽しみ活かすことにあるのではないかと思うようになりました。
歳を取るのは面白い!です。





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