八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.142


【掲載:2019/3/08(金曜日)】

やいま千思万想(第142回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

改めて「以心伝心」の重さを思う

  音楽家にとってオフシーズンともいえる1月から3月の期間。とはいえ各団の通常練習は続きます。
まぁその間に私は休暇を取って休ませて頂いているのですが(練習をお休みして旅行などします)、そろそろ春の演奏シーズンに入って来るため特別の練習が入ってきます。
それは合宿や強化練習と呼んでいる練習時間を長くして音楽作りに専念する集まりです。
「合宿」とは皆で施設に宿泊しての長時間練習。
「強化練習」とは宿泊はしませんが、普段の練習より長く時間(午前練習/午後練習、時には更に夜練習が加わることも)をとっての日々。
しかし、困ったことに長時間練習しても成果が上がるというものでもありません。これが辛いところ。
今回は音楽だけに限らず普段の生活の中でも〈大切な事柄〉であると思われる「以心伝心」(言葉や文字ではなく、互いに思っていることが伝わること)について書いてみます。
目的に向かって成果が上がるかどうかはこのことにかかっていると最近強く思うようになりました。

 話は音楽練習に戻りますが、人が多く集まる合唱やオーケストラでは、如何に共通する価値観も持って音楽作りができるかが課題です。
集まれば人の数だけ個性があってバラバラになり易い。
それをリーダー(指揮者など)が一つにまとめていくというのが練習の目的なのですが、子ども、中高生、大学生、そして大人たちが集まっての練習となるとそのやり方も意図の伝え方もそれぞれに異なるというもの。
大学生までの練習では、やはり言葉による説明。その説明には絵を見せたり、文章を読ませるなどで伝えることは必要でしょう。
詰まるところ、音楽は身体全体で情熱をもって自ら演奏し、語り、様々な参考になるものを見せ、常に動きを伴って伝えなければ伝わらないとの経験です。
時間がかかるのですね。そして体力や気力を根っこにしっかりと持っていなければできない練習法です。
大人の集まりとなればもっと大変かと思われるかもしれませんが、実は巧くいけば最も短く、そして効果も上がり、軋轢やストレスがなく、更に充実の気持の良い練習へと変えることができます。
それが「以心伝心」を用いて、ということになるのですね。
ただ、このためにはそれ以前に演奏への目的がはっきりと示されていなければなりませんし、皆がその事を理解し、そして近づいていこうとする意思のあることが必須。
またそれに加えて、既にある程度のノウハウ(技術や手段)を蓄えている必要があります。
向いている方向が同じであるならば、たとえ最初はバラバラであったとしても、見合って、助言し合って、進むことはそんなに困難なことではないと思うのですね。
伝えたいことを言葉にすることなく、互いの心から心へと伝わる。
「以心伝心」とは熟考された経験の積み重ね、といっても良いでしょう。
心を向き合わせ、確かめ、その成果をもまた確かめようとして共に過ごす。
この繰り返しが〈無言にして解り合える〉、を生む。私の目指すところです。

 



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