八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.152


【掲載:2019/8/29(木曜日)】

やいま千思万想(第152回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

「快楽度の高い実感」こそ、人生とその心をつくる

  〈百聞は一見にしかず〉と言います。
百回聞くよりも、たった一度でも自分の目で見たほうが、体験したもののほうが確かだという諺(ことわざ)ですが、体験・実感が何よりも大切だということですね。
以前、体験することができなければそれらを補う想像力を持って、と書きました。
しかし想像力をもってしても超えられないものはありますね。
〈例え〉は沢山あります。特に悲惨で不幸な出来事は想像だけでは決して理解することはできないです。
自然現象での被害がそうですし、あるいは人為的に引き起こされる災害(戦争、飢餓、貧困、孤独)などは想像力を大きく超える事態が生じます。
しかしそれらを体験し、耐え、生き残った者の言葉は力強く人の心を掴み真実の有り様を伝えます。
その場に居あわせていない者が伝えるものは小さく、経験者の目と体感とを比べれば、それは余りにも事実と異なるということになってしまうのではないか、そう思います。
人の命が失われるという不幸な場面など体験したくないですが、それらの苦い思いを二度と繰り返さないためにも、体験者の証言の言葉には耳を傾ける必要がありますね。
人間として成長する、そして人類の進化にも繋がる、それはそれらの実感を語り続けるという積み重ねです。
経験に基づかない言動は「説得性に欠けると知れ」、です。

 最近、社会を見渡してみると少し暗い気持ちに陥りがちです。
世界の情勢を真剣に見つめれば何と大きく揺れ動き、情報が入り乱れていることか。

 さて、少し方向を変え、幸福度を高める方を見てみましょうか。私のささやかな体験です。
8月は休暇の期間としたいのですが、秋・冬の演奏会のための練習が集中して数日間のお休みも取れません。
「夏合宿」(tomas-chorと呼ばれる私が指導している合唱団一同が伊豆湯ヶ島温泉に集まります)は4泊5日で、一日24時間フル稼働という過酷なスケジュールなんですが、
終わってみれば参加したメンバーは充実の顔で、初めて参加した人も「こんな日々とは思わなかった!来年も是非来たい!」との声も多かったようです。
さすがに私は帰阪しても3日程眠り続けるといった疲れ方だったようですが、参加者が喜んでくれたことで満足です。
楽しかった理由は自由に人と組んでたっぷりと歌を楽しめる「少人数アンサンブル」にあったらしいです。
まあ、歌うことだけを考えていればよい数日間だったのですから、さもありなんです。
また、あまり日頃喋ることのない人と会話できる機会であったことも良かったようです。
最初、参加に消極的であった人も「行く」ことで新たな思いを持つ体験ができた。体験は想像を超えたということですよね。
体験に基づいた語りこそ、何にも勝る真実に溢れていて説得力がある。
体験は行動。
その行動によって想像力が増し、さらなる快感を伴う体験を生みだしていく。
それが「幸福」を創りあげる人生ではないのか。そう思った8月の休日でした!  

 



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