八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.153


【掲載:2019/9/13(金曜日)】

やいま千思万想(第153回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

必死に生きる人生を営むとは他者を認め「人間好き」になること

  本は好きな方なのでよく買います。
ただし、譜面を見るのに忙しかったり、音楽について思索に耽ることが多いので本を読む時間が取れず、随分と机の上に積んでしまわれている状態が続きます。
しかし最近立て続けに二冊、一気に読んでしまう本と出会いました。
それらの内容が現在の私の興味と一致したからです。

 興味ある本の1冊目、その本のキーワードは「真の自立」です。
著者は書きます。「助けて下さい、と言えたとき、あなたは自立している」と。
「自立」とは何でも自分でする人のことではなく、困った時にはいつでも誰かに助けてもらえる人、つまり〈他者に依存すること〉ができる人なんだ、と。
一人で生きているわけではない、一人では生きられない。
だから依存できる真の友である他者と出会うことこそ「自立して生きる」ということなのだと。

 この「生きる術(すべ)」、私にもあるようで大いに共感を持ちました。
信じられる音楽仲間、合唱メンバーが私にはいます。
「助けて」と言える仲間です。〈修羅場〉であったステージを共にしてきたからこそできた仲間です。
仲間(真の友達)とは〈互いに人間として尊重しあう関係である〉とも書かれています。
言い得て妙、納得です。この本、「生きる技法」安富歩〔青灯社〕。

 もう一つの本は「あきらめる、そして頑張る」との文字が大きく本の帯で目立ちます。
私の主治医の一人(合唱団のメンバーでもある青木佐知子)から「読んでみてください」と手渡されたもので、同じ職場の先生が書かれた著書です。
これまでにもその先生の話は伺っていましたが、本を読み始めてちょっと気が引き締まりました。

  「緩和ケア医が、がんになって」大橋洋平 〔双葉社〕。愛知県海南病院、緩和ケア病棟に医師として勤務。
希少がん「消化管間質腫瘍」(ジスト)と告げられてのがんとの闘い。

 その赤裸々な文章からは「自己」にこだわりながらも、患者となった視点から自らの命を綴っています。
「いつかは死ぬ」ではなく人間は「いつでも死ぬ」。「死は引き算でなく足し算で」。
それは一日を数えるのに死へと向かって行く数え方でなく、生きている日を尊んで数えていくという意味です。
「とにかく、しぶとく生きよう!」と著書は結びます。

 二冊に共通するキーワード。それは「己」という視点から「他者に向かう」「他者から」の視点、ということではないかと私は思います。
人生のより良き生き方、「他者と認め合う視点」に、です。
〈自己愛〉ではなく〈自愛〉へ。
〈自己愛〉は利己的に陥りやすく、不安と隣り合わせ。
〈自愛〉とは己を大切にするがゆえに人も大切にする。
人を想うことで作り上げた真の友だからこそ、その交流の中で人としての成長もまた有り得る。それは大きな安心を生み出すのです。
最近、私の心の底から声が聞こえてきています。そろそろ「石垣島に行きませんか?」と。
いま、私の仲間にスケジュールの調整と飛行機や宿の予約を検討してもらうことを依頼しました。  

 



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