八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.154


【掲載:2019/9/26(木曜日)】

やいま千思万想(第154回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

個性豊かな作品が並ぶ「京都公演」が終わりました

   昨夜は京都公演「邦人合唱シリーズ〜日本語による音語り〜」でした。
去年と同じような台風の進路が気になって(去年の公演は取りやめ、延期となりました)。あの悪夢が思い出される日々の中での練習。
しかし、昨日は東京や北海道、その他遠方からのお客様、またそれぞれの作曲家もお出で下さっての熱い視線を感じる演奏会となりました。

 演奏は衝撃的なものとなったらしく、アンケートなどでも唖然とされた様子がうかがわれます。
その演奏の私の思いをお伝えしたく、当日のプログラムから転載させていただきます。

 『今回選んだ曲ほど個性溢れた注目作はこれまでにはなかったと思います。
選曲の際には「私のお気に入り」、そして合唱団にも、演奏史にとっても「意義有るもの」にしたいとの思いで選ぶのですが、今回は見事に異色作が並びました。
一曲毎に個性溢れる。世界観がある!
さて、どの曲から聴いて頂いてどの曲でコンサートを閉じるか?
これほど迷ったプログラム構成(曲順)はこれまでになかったと思います。

 1) 信長貴富「静寂のスペクトラム」は氏の魅力を充分に保った曲づくり(メロディー、熱き思いを表出するリズム)でありながら、曲は視覚的イメージを前面に押し出そうとする姿勢が強い。
それは氏が選んだ「詩」からも腑に落ちる。氏の前書きでは〈創作欲求の限界に挑んだ〉と結びます。

 2) 藤嶋美穂「あさきよめ」。「歌」が有る。歌詞への愛着と言って良いのでしょうか、全章にわたって言葉への深い想いがあることに共鳴しました。
「あさきよめ」は朝清め(朝浄め)。『生きることの悲しみ、苦しみにあっても「生きて良いのだ」と背中を押してくれる。その決意と自己を叱咤する強さがある』と前書きに氏は書きます。

 3) 千原英喜「稲作挿話」。千原英喜氏とはずっと長く音楽を共に歩んできました。現在、全集CDは第十巻を発刊しています。(第十一巻も近々発刊する予定になっています)この「稲作挿話」は約11分ほどの曲。
宮沢賢治の詩がこのように歌として語られるとは!賢治さんも驚かれるのではないかと思うほどです。
農民への愛情が、その優しさ、温もり、情熱が伝わってきます。第三曲目(終曲)は何度指揮しても感動的です。賢治さんの祈りにいつも心が揺さぶられます。

 4) 西村 朗「輪廻」。『男声合唱「風童(かぜわらし)」』による演奏。
西村作品の音、音響の凝縮された世界がとても好きです!
人の心を掻き立てる、時には甘い陶酔、心の底をえぐり出そうとする音の動きに心震えます。
グラスハーモニカ、チベットの小さな打楽器も登場します。
今回も見事な西村朗の秀逸な音響、そして静謐(せいひつ)の世界が繰り広げられます。

 音楽の原点、それは「感じ合える」ことの喜び。
音の高低が飛び交い、メロディーの交錯、立ち上がる音響、複雑に絡み合うリズム。それらにホール全体が「感じる」!
この京都府立府民ホール「アルティ」でどのように響き合うか。楽しみです!』  

 



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