八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.162


【掲載:2020/01/16(木曜日)】

やいま千思万想(第162回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

酒を飲む至福、しかしその始まりと結果は不思議です〜その二

   お酒の話、その二です。
1回目に書きました、『そっと人間に寄り添っているのが「酒」。
どんな場面においても、脇役として、また主役としてお出ましになっています。
心を柔らかに楽しくさせ、憩わせ、またある時は人心を唆(そそのか)し、激情させる働きもする役どころです。』と。
お酒がどうして生まれたか、とか、その作り方や成分などを追っても良いのですが、お酒にまつわる出来事を思い出してみたいと思ったので書いてみます。
随分とお酒には教えられてきました。とはいえ、私にはそのことを書くには勇気が必要。
今回、ちょっと恥ずかしい話を二つ書いてみようかと思います。どれも今となってはすでに時効になっているということで。

 先ず初めの出来事。
お酒もあまり飲めなかった若かりし頃の色っぽいお話。
それはモーツァルト作曲のオペラ公演を控えて指揮をしていた20代半ばのことです。
演出の方が有名な東京の劇団出身で黎明期のテレビドラマにも出演されていた切れ者。
その方に秘密めいた場所に連れて行かれた話です。
その場所は京都だったか大阪だったかは不鮮明なのですが、その繁華街の裏通りに入り、「え!!ここにエレベーター?」のところから店に。
扉が開けば薄暗いサロンが。
強烈に印象に残っているのはそこに居た女性たちと生演奏。私には心臓が飛び出るほどの衝撃でした。
生演奏はムーディーなジャズ。そして応対をしてくれた女性はなんと体をあらわにしたシースルーの衣装。
勧められたお酒はコニャック、ブランデーです。
その演出家は、慣れた感じで女性にお触りと会話。
その方曰く「生真面目な貴方に、きっと役立つはず」。
その時振っていたオペラとの関連であるとはいえ、その体験は確かにその後の私に大きな影響を与えましたね。

 さて、もう一つの体験は…。
それは最も大きくて、人生と酒の飲み方を教えてもらった出来事です。
その出来事とはある男声合唱団を振っていた時に起こりました。
男声合唱団って男同士なものですから何事もストレート、そして悪気のない悪戯心が満載。
やはり生真面目だった私に事あるごとに「柔らかく、まーるくなれよ」とのおじさん団員からのアドバイス。
ある夜、大阪の心斎橋にあるスナックへと連れて行かれます。
この店にはそれまでにも何度か行ったことがあったのですが、しかしその夜は、なんと酔わされた挙句に店に残されてしまうという。
おじさん二人はさっさと帰っていったと後でお店のママさんに聞くことになるのですが、
〈この夜の事は痛恨ながら記憶がない!〉(実は覚えていることがあるのですが、やはりここに書くにははばかられます!)

 良い勉強をさせて頂いたと本当に思っています。
演出家もおじさん団員も今は懐かしくお顔が浮かぶ人間味豊かな人たちでした。
その後の私、酒で失敗をしたことがありません。
それらの経験は実に痛い思いではありましたが私にとっては有効な教え、人間教育でした、と今は感謝の思い出です。
お酒は良い友(かな?)。  

 



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