八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.195


【掲載:2021/07/01(木曜日)】

やいま千思万想(第195回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

特筆すべき20世紀最高傑作の一つを演奏します

  20世紀を振り返ってみる機会がありました。前世紀を総括すると一体どういった世界だったのか?
世紀とは西暦を100年ずつ一期として数える時代区分。20世紀とは西暦1901年から西暦2000年までの100年間ですね。
この間に何が起こったのか?何があったのか?今年2021年。21世紀に入り、まだ時も経たない現在を捉えるためにちょっと前世紀を確認しました。
一体どの様な理由でもって調べようとしたのか。それは演奏会に取り上げる曲について重要な事項だったからですね。
まぁ、いつもの事とは言え作品の背景を知ることは重要です。
作品はその時代を反映しているからですし、「気持ちを込める」とか「真の表現」を考えれば当然解っていなければならない事柄です。
それを知ることはまた楽しみですし、クラシック音楽家ならば「今・現代」だけではなく「過去」とも繋がらなければならないという責務を思うからです。

 7月に「現代の音楽 〜 Music of Our Time 〜」と題する恒例の定期演奏会を開きます。
そこで取り上げるのはフランシス・プーランク - Francis Poulenc (1899-1963)の作品、「人間の顔」。この曲、合唱曲として20世紀の最高傑作の一つと言われています。
しかし、その割にはあまり演奏される機会のない曲。
「難曲」であるということもありますが、まだまだこの作曲家と作品が一般的には知られていないという理由が考えられます。
演奏される機会が少ない、だから知られない。演奏されないというのは致命的な要素ですね。
もう一つ世界に拡がらない理由として詩がフランス語ということもあるかもしれません。
ラテン語や英語、ドイツ語イタリア語といった音楽で親しんだ言葉でなかったのがこの作品にとって不幸と言えるかもしれません。
また、詩がポール・エリュアール - Paul Éluard(1895-1952)による〈地下出版のレジスタンス詩集『詩と真実・1942』〉から、というのも関係があるでしょう。
しかし、その時代背景だからこそ名曲が生まれたとも言えます。ドイツ「ナチス軍」がフランスに攻め入った時期がその背景です。

 20世紀は「世界大戦」が二つありました。
「第一次世界大戦(1914〜1918)」そしてナチス軍による「ホロコースト」、人類史上初めての原子爆弾使用と日本の敗戦となった「第二次世界大戦(1939〜1945)」。
大戦の前後の歴史的な出来事とその関連事項は人類にとってとても重要な〈破壊〉と〈創造〉を刻んでいます。人類史上特筆されるべき世紀となったのです!
プーランクの「人間の顔」を演奏することは一人の音楽家による〈芸術による抵抗の叫び、人間への優しき愛、「自由」への渇望〉を歌い上げることです。
今の時代と重ねて論じる人も居ます。私も演奏を通じて叫ぶことになりそうです!
「一つの言葉の力によって 僕は再び生き、生まれた。君を知り、名付けるために、『自由』と」。

 



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