八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.206


【掲載:2022/1/20(木曜日)】

やいま千思万想(第206回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

「人間の新たな時代」を夢見たいですね。社会の安寧(あんねい)を祈って

    にわかに一冊の本が話題となっています。
それは人間にとっての価値観を大逆転させるほどの内容を持っているからでしょう。
ツイッター(Twitter)上で以前から気になっている大学教授(評論家でもある)が言葉荒く批判していることを見て改めて考えさせられました。
〈気になっていた〉とは、その論が私には以前に比べて変化していると感じていたからです。
変化は必要でしょう、しかし、骨幹が揺れる程の変化はその経緯とか根拠が知りたいのですが、どうもその辺(あた)りがハッキリしない。
最近よく耳にする言葉「エビデンス(evidence)」ですね。
情報や主張に対する正確性や客観性を持つには、エビデンスが欠かせません。
「証拠」「根拠」「裏付け」「形跡」といった意味を持つ言葉なのですが、衝突している両意見が互いのエビデンスが無いと言い合うことが多く、
これも水掛け論に終わってしまうような論調のように思えてしまう私です。

 話題の本は地球環境問題から入ります、最近(といっても随分以前から言われていたことですが)、我が国は、いや、地球全体が青息吐息となっている。
その原因の一つに人類による二酸化炭素の排出があげられます。
その排出によって大気中の二酸化炭素(CO2)が増加し温暖化に大きく影響を与えている。
石炭、石油、天然ガスといった化石燃料の燃焼、森林の伐採(木々は二酸化炭素を吸収するのに⋯)、
海洋酸性化(排出された二酸化炭素の1/3は海洋に吸収されている)が起こり更に温暖化も進んでいる。
北極圏では2倍以上のペースで温暖化が進んでいるようです。
科学者たちは今後さらに加速的にこの地球は暑くなると指摘しています。

 そうした危機を背景にその本の著者は論を進めます。
読み終わるとどっと驚愕して言葉を失うと同時に、ある種の希望も持つ。
それほどの内容ですから、真っ向から反対の意見を強く述べる人も現れ、それが大きな話題となっているのですね。
「人間の新たな時代」の意で「人新世(ひとしんせい)」という言葉を用いる。
この言葉の定義はなかなか複雑で多岐にわたるのですが、この本、「資本論」を持ち出したことで紛糾しているのでしょう。

 資本主義には〈持続的成長が不可欠〉だ。
しかし、それは地球を壊してしまう。唯一の解決策は潤沢(じゅんたく)な脱成長経済にすること。
それを説明するのに晩年のマルクスが構想した「脱成長コミュニズム」を提唱する。
資本主義を脱して〈(潤沢な)脱成長経済にする〉それが主旨となっています。それがまた論を生む。
斎藤幸平 (著) [人新世の「資本論」 (集英社新書)] 、それがこの本です。

 私、思うのですね。原点に戻りませんか?と。
格差を是正し、共に繁栄し、いがみ合うことなく平穏に平和に生活する。
荒々しく反論する言葉を想像します。
「ガキみたいなことを言うな!」「そんな荒唐無稽なことを言うな!」と。
でも、私は言い続けたいですね。「摸索でも良いではないですか?」と。

 



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