八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.210


【掲載:2022/3/31(木曜日)】

やいま千思万想(第210回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

演奏者の個性を輝かす 照明や演出ではなく自らを輝かせる光を放て

  昨日、2022年3月27日(日)京都文化博物館[別館ホール]で演奏会を開きました。
この別館は昔銀行だったもので、その姿は当時を偲ばせて今も残されています。
通りに面した重厚な建物、その玄関口から入れば昔に業務を行っていた場所とが柵で分けられています。柵の中の場所が現在では様々な催し物が行える貸しホールです。
しかしそのホール、響きが良く、演奏会にもよく使われているんですね。
ただ、特化した「音楽ホール」ではないので通常有るべき反響板や照明器具などといった設備は備えられていません。
それがまた私にとっては良いわけで、音響を良くするための近代的工夫を何もしていなくて「響きの良さ」が生まれているのですから「お気に入りのホール」となっています。
文化財的古い建築。
天井の高さ、木材の壁、天井など、目で見ても楽しめ、触れても楽しめるといった風情です。
多くの方々がご来場。
まだまだ油断できない『コロナ禍』での開催。マスク姿が一層目立ちます。
合唱団もマスクをしての歌唱。
早くマスクを外せる時期が来るのを待ちたいのですが、私の判断で、まだ外すようには指示していません。(他団ではマスクをしない演奏会も有ったりします)
客席には作曲家と詩人の先生方もお出で頂き、華やいだ雰囲気の演奏会となりました。
余り聴くことのない曲だったり、初演曲もあったりで、決して「聴きやすく、気楽に行ける」といった演奏会ではないと思われがちなのですが、
演奏する者にとっては是非聴いて頂きたい、そして楽しいと思って頂ける曲たちです。

 さて、そういった条件での演奏会だったのですが、舞台は劇場用の照明ではなく簡易な照明。
合唱団が歌う場所には光が当たっているのですが、それは楽譜を見るためであり、顔が見える(マスクはしているのですが・・・・・・)程度の照明です。
しかし時にはお願いしたくなることもあるのですね。
曲によっては独唱する人を目立たせたいとか、あるパート(声部)を際立たせるために照明を用いたいとか、そう思うことがあるのですがそれができないのですね。
つまり、「目を向けさせる」という演出ができません。色照明や部分照明ができないのです。
演奏だけで楽しんで頂く!これ一点に絞られるわけです。それこそが醍醐味でなければならない、ということに成ります。

 プログラムには『演奏を聴いて頂くことで今日を、この瞬間を楽しんで頂く!「コロナ禍」や戦禍の不安感を吹っ飛ばすような時間。
人間同士が音楽を通して温かい空気の中で「生きているという共感」を共に過ごす。そのための「演奏会」にしましょう』と、メッセージしました。

 合唱団員一人一人が主役となる。照明や演出で目立たせるのではなく自己の個性で輝く。
人間って、声でも、姿でも、一挙手一投足の動きを感じ取ることができます。「動物的な直感」でしょう。
「光を当てて輝かせる」ではなく、「自らが輝いて存在を照らす」。これ「今を生きる術」です。

 



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