八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.211


【掲載:2022/4/14(木曜日)】

やいま千思万想(第211回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

「孤独」からの解放 人間はその解放の知恵で生きます

  人生長く生きていると、そして現役を続けていると、記憶に強く残っている「人」のことを否応(いやおう)無しに思い出すことがあります、器楽奏者にも歌手にも。
とくに合唱はこの季節(春)になると「移動」(人の動き)があり、新社会人や転勤などで入団希望者が訪れます。
ある若者の事がずっと脳裏に残っていて思い出されます。
彼はとても合唱好きで私の合唱団に入ることを強く望んでの入団。
新社会人として、溌剌と一歩を踏み出した好感の持てる男性と感じたことです。
練習場にも早く来て、一日でも早く団に慣れるようにとの動き、またその歌っている姿には彼の真面目さと「音楽好き」が滲み出ています。
神経が過敏かも、とは思いましたが、それは誰にもあること。そういった性格を持った団員も彼だけではなく沢山居ます。
〈神経質〉な人にはそれ相応の対しかたも必要なのですが、大抵「音楽」の中に居ればそういった性格の人も周りの仲間と打ち解けて良い方向に向かっていくことを私は多く見てきました。
彼のフレッシュさは際立っていました。
しかし、日が経つにつれ彼の表情が変わっていきます。
練習場に現れるのも遅くなり、そして休みがちになりました。
あんなに良い表情で練習場へと飛び込んで来た若者の目が輝きを失って時折現れます。
他の団員が心配し始めます。そしてある日、彼が亡くなっていたことを知らされます。

 連日の残業での遅い帰宅、それに伴っての寝不足、職場の悩み等・・・・・・。
そのことは当人から聞いていましたから「無理しないでね」と祈るような気持ちで彼の来るのを待っていたものです。
しかし、亡くなってしまうとは!もう一つショックが重なります。
親御さんから「もう、これ以上息子が亡くなったことを大事(おおごと)にしないで下さい」との言付け。
彼が部屋で「孤独」に耐え、息を詰めて悩んでいた姿を想像してしまう私です。
結局、彼の死の原因が何であったのか知らされずに今日に至っています。胸が痛みます。彼に何が起こっていたのか?

『「孤独を愛せ」や「孤独が人を強くする」といった非科学的な精神論を説く者もいる。
しかし、孤独は愛するものでも、人を強くするものでもない。孤独は社会的なつながりが不足している状態であり、
そこから生起される孤独感は、誰かとの繋がりを求めている、身体のサインだ。愛することで乗り越えられるものでも、人を強くするものでもない。
・・・・・・(中略)孤独とはすなわち本人の意志に関係なく、社会的つながりの質と量が不足している時に生じる、不快な経験なのだ』(大空幸星著「望まない孤独」より)

 残念ながら我が国で「合唱団員」としてだけでは生計が成り立ちません。
ほとんどの者が別に仕事をもっての活動です。
職場の環境や正規社員と非正規雇用者との待遇の違いの話をよく耳にします。
その場で起こっているだろう「孤独」がないように、と強く思います。
「孤独」からの解放。人間は〈孤独にならないように〉との知恵で生きます。

 



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