八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.226


【掲載:2022/11/10(木曜日)】

やいま千思万想(第226回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

ため息が出そうな世相、その心を奮い立たせて至福の音楽の道を歩みます

 東京でのコンサートのため、三日程東京近郊に滞在しました。驚きましたね。人出は半端無く多かったです。
こんなに混雑しているのか!と思う人の流れでした。
以前行った時など、反対に「こんなに静かな東京」なんて、とびっくりしていたというのに。これは感染対策が緩められたからですね。
マスク着用はなされているものの、人の流れは明らかに違っています。大都会だと、人の多さを再認識させられました。

 ネットなどでは、「まだ緩めるのは早い。
感染対策はこれまでと同じか、それ以上に慎重でなければならない」との意見も多かったと思うのですが、
現実は皆が待ち望んでいた「開放感」が優って人出が多くなったようです。
今では全国の感染者数も関心度が低くなったのか、報道でも取り上げることが少なくなり、
既に『コロナ禍』が過ぎ去ったかのような感覚なのでしょうか。
それは時期尚早(しょうそう)でしょう。

 合唱(「東京コレギウム・ムジクム合唱団」)の演奏会ですから通常はマスク着用での演奏。
しかし、団員とも相談して今回はマスク無しで聞いて頂くことにしました。
それは街の風景に寄せたものではなく、そもそもホールの環境・感染対策が飛躍的に良くなっていることに起因します。
ホール側も了承済みでした。
人間の思いは不安定。〈空気読み〉が慎重さを欠き、我が民の選択は大衆になびく。
個人の思いはか細く揺れ、思う様には運ばないということも起こり得ます。
感染が広がりませんように!
しかし、行動を萎縮させることなく、感染しない、させないという知恵を持って生活をより良いものにしなければ、との思いです。

 戻ってきた新大阪駅でも、とんでもなく人、人、人。
以前のように外国の方はそう多くはないのですが、感染対策が緩くなったからか地元の人も、
そして他県からの観光客もあの手この手で招致されて集まってくる。
その痛々しく思われる程の雑踏には閉口します。静けさ、余裕有るまばらな人の行き来が恋しくなりました。

 演奏している時が一番幸せです。音楽の中での自由感、想いの充実感、聴衆との一体感に至福の喜びを覚えます。
しかし、ホールに入る前や、そしてホールを一歩出るならば現実が目の前に立ちはだかっています。
政治や経済など、生活に直接影響する課題が山積み。
なのにいっこうに問題解決に向かう様子は見当たらない。
「コロナ禍」も生活水準の向上もまだまだ改善される見通しがない。
政界では色々と甘い言葉が行き交っていますが、それらの言葉の虚しさは十分これまで味わってきました。
幸せ感が多いほど、失望感もまた強い。一歩一歩進むしかない、とは判っていてもこの牛歩は苦渋。
音楽が持つ「肉体」「心」への妙薬を頂きながら我が思いは力強く前進あるのみですね!

 さてさて、我が国の安寧(あんねい)はいつ来るのか?平和なようで、暮らしやすい社会ではない、と私には見える。
ため息が出そうな文末に成りそうなのを奮い立たせ、また明日から至福の音楽の道を歩みます。

 



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