八重山毎日新聞社コラム
今後の音楽界を考えると明るい未来だけでなく、少し暗澹たる気持ちも湧いてきます。
【掲載:2024/02/29(木曜日)】
やいま千思万想(第257回)
「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一
九州熊本県のある村がバブル景気となっているようです。はたしてその結果は
演奏会が沢山開催され、聴衆も増え、故に音楽界全体の経済が豊かになる。
となるのですが、なぜかそう未来が広がっているようには当事者としては見えない。
しかし、音楽は「お金のため」だけではない活動でもあるので
(これはいわゆる「芸術」に関係する事柄だからですね)、懐具合だけを考えない人が結構多いです。
特にオーケストラの奏者たちは一部の有名なソリスト、指揮者などのように収入が高額であるわけではありません。
一言で言えば、条件が良くなくても「好きだから」演奏し続けているのですね。
国力としての文化政策はこの国ではとうの昔に薄らいで、歴史の亡霊者的価値の中にあります。
愚痴を書こうとしているわけではありません。
本当の豊かさを追うのは永続性ある思考から生まれなければならないことを書こうとしています。
もしそうでなければ一時の潤い、それも泡のようなものにしか成れない、ということを確認しあいたいとの願いです。
最近話題になっていますが、台湾の半導体製造会社の大手「TSMC」が熊本に工場を建て、
その効果でこれまで小さな村であった場所がバブル景気に湧いているとのニュースが毎日のように流れています。
日本政府はそのことに工場設備投資額の半分に近い助成金を提供するそうです。
周辺地域には既にマンション建設ブーム、不動産価格が急騰中との報道。
ある土地所有者は「土地を売れば数億の利益を得られる」とインタビューで答えています。
地域離れが始まり、田畑がなくなっていきます。
一概にその動きは「良くない」とは言い難いとも思うのですが、果たしてそれが長いスパンで保証されるかが少し気になります。
永続性を感じてこその安心です。
今起こっていることは半導体製造の工場建設です。
未来志向の半導体にマイナスの要因が生まれれば、そう喜んではいられない事態になる可能性があります。
つまり、部品を作るだけでなく、本体そのもの(半導体)の計画的進化、
世界を席巻する高度な技術を伴わなければそう喜べる話ではないということです。
残念ながら半導体の設計は他の国の会社。
それは既にとてつもなく高精度になっていると聞きます。
過去の日本はそれに追従し、いやそれとも互角、それ以上のモノづくりもできたようなのですが、
それは「今や昔」で、第一線の会社とは競争相手には成れず低迷しているのが我が国の実情です。
急に話を元に戻しますが、音楽界も同じで、市場だけを考えないで、
音楽そのものの未来を創造できる作品や演奏を目指すべきで、「今だけ」に留まっていては決して夢ある発展は見込めないということです。
短絡的に「益」を求めず、本道に、つまり世の価値観の変動に惑わされない舵取りを進めるべきだと主張したいです。
モノがあり、その生産があり、ずっと必要なモノで発展性が望めるものを作り出さなければ、
この日本はジリジリと沈没するしかない、ということでしょうか。