八重山毎日新聞社コラム
「歌は世に連れ世は歌に連れ」という諺があります。
【掲載:2024/10/10(木曜日)】
やいま千思万想(第272回)
「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一
歌は世に連れ世は歌に連れ
世間ではやる歌は時代の風潮を受けて変わっていき、世間の趨勢(すうせい)も歌の流行によって影響を受ける、という意味ですね。
時折、コンサート前には自信が無くなります。しかしながらこの感覚、必要悪だと私は思っているのですね。
より良いモノ作りにとっては必要感覚です。
自信に陰りを感じる原因は「集客」についてですね。
日本の本土ではクラシック系は今もこれに悩んでいます。
マネージャーが持つ悩み、それは「音楽に魅力が無くなったのか」「企画が現代の聴衆から支持されないのか?」という不安です。
どの団体でも悩みの種になっています(いつの時代にあってもそうなのでしょうが)。
私の団体でも同じです。団と私の歴史を追いますね、最初は音楽界(特に私が活動中心の大阪)からの無視から始まりました。
評価も酷評。それに納得できず、それではといきなりドイツ演奏旅行を敢行。
そのドイツでの評価が高評。その評判と新聞記事などを通じて日本の評論家が我が国の音楽界へ紹介します。
そこからは一気に注目の演奏団体へと変わりました。
団は賞を次々と得ていき、私は新発声法と共に全国を飛び歩く。
NHKと合唱連盟でのコンクール審査委員として名前も覚えて頂きました。
これらの参加はひとえに活動を識って頂き、集客に反映するを意識しての事。
沢山の方に知って頂きたかった、聴いて頂きたかったとの思いからです。
そこからは、凄かったですね。毎回の演奏会の観客数も跳ね上がります。満席状態も少なくありません。
演奏すれば話題と成り、また期待もかけられて一層演奏も向上しました。
CD制作も順調。各助成金や、文化庁からの助成も年間を通じて高額。それが幾年も続きました。
作曲家の方達からの信頼も厚く、幾人かの方々とは今もその関係は熱く続いています。
木下牧子さんとのお付き合いの始めに「貴方の団は今、トレンド(流行)ですから」の言葉を頂いたのには笑ってしまいましたが。
年月を経て、まぁ、変化はじわじわと世相や合唱界の動きに起こる。
世の中の動きの「不可思議さ」「矛楯」についていくのに抵抗を覚えて、依頼を断り、私は表に出るのを止めてしまいます。
千原英喜氏などは「もっと出てきて物申してくださいよ」と仰るのですが、
この日本、行くところまで来ていると感じる私にはそれに熱くなることが段々と出来なくなっていたのですね。
決定的に変化したのは「コロナ禍」からでしょう。
今やっと回復の様相が見え始めていますが、失われた3年、取り戻すことはもう少し時が必要です。
それまで頑張らなければと踏ん張っている状態です。
そういう現状の中、現在の我が団はしっかり高水準を保っています。
これまでにない感動的な響きや表現も出来ています。
「歌は世に連れ世は歌に連れ」だというのならば、今こそ我が団はトレンドなんだと思っている私です。
クラシック系のコンサートがもっと元気に成りたいですね。
その面白さは「本物」なのですから。