八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.56


【掲載:2015/07/12(日)】

音楽旅歩き 第56回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

【人の暮らしは響きの歴史(その2)】

 短い期間でしたが7月の始めに石垣を訪れました。
大きな演奏会を終えて少し息抜きをと、ダイビングと島の空気を楽しみたいと思ってのことでした。
 石垣は、以前にも書きましたが観光の島として着々と歩を進めている様子、平和で安定した島として、繁栄の道をこれからも摸索してほしいと願うばかりです。
 島は強い夏至南風(カーチバイ)が吹いていました。
海も波が高く幾層にも重なる白波を季節の変わり目の象徴として楽しめました。

 さて、響きの続きです。
人の暮らしは音に満ちています。この地球上では真の無音は存在しませんね。
宇宙空間のように真空では無音が体験できるのですが。
私たちの暮らしは音(響き)で溢れているということです。
机や手を叩く、ものを擦(こす)る、ひっかいても音が発生します。
飛行機の音、車のエンジン音、タイヤが道路をとらえる音、繁華街の喧噪、静かな夜道を歩く音、その周りで鳥や虫も音を発しています。
もちろん音楽もありますし、人の話し声、そして風の音。
深夜の台所では孤独にうなる冷蔵庫のモーター音もありますね。
私たちの周りには快音と不快音が入り混じって存在しています。

 音とは、響きとは?ちょっとおさらいをしてみましょう。
音とは空気の圧力変動の流れです。
押し縮められたり、引き伸ばされたり空気はします。
押し縮められて「密」となり、引き伸ばされて「疎」となる。その「疎密」の運動(音波となります)が鼓膜に伝わり、それを脳が音として認知するということでした。
 島の夏至南風(カーチバイ)を体験したものですから、風を例にとって説明しますね。
風がビュービュー鳴っています。
これは速い空気の流れと遅い空気の境目で空気の乱れ、渦が生じたために起こっているものです。
電線が鳴っていることがありますね。しかしこれは電線自身が振動して音を出しているのではなく、電線に当たった空気が二股にちぎれて渦巻く気流をつくり、その渦巻きの生成と消滅の繰り返しが圧力変動の流れとなって音を出しています。
 これらの空気の渦を「カルマン渦(うず)」と呼んでいます。
風が強ければ強いほど(風の速度が速ければ速いほど)高い音、大きな音となります。
風の強い時の電線だけでなく、縄跳びをしているときに回すロープが唸るのもこの原理ですね。バットの素振り、スプレーの噴射音もこの類いです。
 風で体験的に知っていることがあります。それは風は音を運ぶということです。風上から風下に伝わる音は風の速さによって音も速く伝わり、遠くまで弱まらずに伝わるということ。
その逆に風下から風上に向かって放たれた音は遅く伝わり、遠くまで届かず弱まってしまうということですね。

 太古から人間は風の音と共に暮らしていました。
風に乗ってきた様々な音で季節を感じ、また襲い来る動物たちから身を守りました。
穏やかな風を音として感じないのは、余りにも大きく、ゆったりした変動だからですね。





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