八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.79


【掲載:2016/07/06(水)】

音楽旅歩き 第79回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

【演奏を聴いて涙するとは?】

 人間が何故泣くのか、ということは現在の科学ではまだ説明できないそうです。
悲しい時に泣く、嬉しい時に泣く、悔しくて泣く、感動して泣く、このメカニズムがまだ解明されてはいないのだということです。
 今回はこの「涙する」ことを少し考えてみたいと思います。
神経に交感神経と、副交感神経があることはご存知ですか?
活動している時や緊張している時、ストレスを感じている時に働くのが交感神経。休息している時、眠っている時、リラックスしている時に働いているものが副交感神経です。
交感神経は昼間に働いて活動しやすい状態にし、副交感神経は夜間に働いて疲労を回復させている、というわけです。
人間はこの二つの神経のバランスによって健康を維持しているのですね。
そしてこの二つの神経を働かせる基となっている心の情動は、与えられた環境状況や過去の体験に依って「快いもの」か「不快なもの」とに分けられて成長したものです。
 涙に話を戻しましょう。
「悔しい涙」「怒りの涙」は交感神経の活性化によって作り出される絞り出すような涙です。
これに対して「悲しみの涙」「同情の涙」「感動の涙」は副交感神経の作用によって作り出される湧き出るような涙です。
副交感神経の涙より交感神経の涙の方がしょっぱい味がするというのですが、これ私は今までに沢山流してきたものでもありますが、まだ自覚したことがありませんね。
こういった喜怒哀楽の感情の涙はどうして出るのか?この人間だけに与えられたメカニズム、無意識のうちに流す涙は深く人間性と繋がっています。

 これまで、演奏を通じて沢山の涙するお顔を拝見してきました。
私自身も演奏に涙する者の一人です。
指揮を通じて多くの涙する体験をしてきました。
オーケストラより合唱の演奏で多かったのですが、それは合唱には言葉が付いており、音響や音色が魅力のオーケストラとは違ってダイレクトに情動に結び付くからでしょう。
オーケストラのような抽象的サウンドにはない、生の感覚を「声」は持っている、人の心に深く届きやすいということですね。

 先日の6月23日(慰霊の日)ライブコンサートでも沢山の方々にお聴きいただき、涙される方も一人や二人ではありませんでした。
これは知り合いの人から後で聞きましたし、メンバーが歌いながら涙している人々を100名を超える聴衆の方々の中に見たそうです。
演奏する者の心がお聴きいただいている方々の情動と共振したということですね。
合唱団のメンバーには聴衆の感性が、その優しい心が伝わってきたといいます。
それを受けて歌い手が感動の涙を生み、そして演奏に反映していったのですね。

 涙を流せる人間であり続けたいと思っています。
子どもであっても大人であってもいつでも感情の涙が流せる人間でなければ、人間同士が結ばれることはないと思うのですね。
信頼のきずなは「涙」によって強く繋がると思います。
それを音楽を通じて果たしたい、それが私の願いです。





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