八重山日報コラム
忙しさもありますが、テレビはニュース番組一つだけ。後はドラマを観るだけです。
【掲載:2023/05/21(日)】
音楽旅歩き 第213回
「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一
【スタッフと名演技による熱いドラマにすさんだ心が救われます】
映画館には行けず、追いかけの新しい映画は見なくなりました。
もっぱら、家で仕事に入る前とか、仕事が終わってから観るテレビドラマ、そしてインターネット配信の映画です。
最近、世間は道理に合わない事が多く憂鬱な気持ちの日が続きます。
その反動なのか「ドラマ」を観てイライラを解消、緩和させることが多いです。
主流となっている最近のドラマの内容は似たり寄ったりの視聴率を意識しての作り、私には少し軽すぎて、ちょっとついていけません。
しかし、中には脚本、監督、そしてプロデューサー、役者もカメラもスタッフも素晴らしく揃った充実のドラマがあります。
いわゆる「大人のドラマ」でしょうか。
最近観たものにNHK BS「グレースの履歴」が強く印象に残ります。台詞は優しさと温かさに満ちていて心が安らぎます。
そして最近の映像の特徴でしょうか、とにかく色が鮮やかで美しさと説得力が有り、
考え抜かれた構図と色彩です。ただ、それを観ているだけで十分観る価値が有ります。
ストーリーも構成が良く、8回連続ドラマ。主人公の生き様、そして残した者への目的・意図が綴られていきます。
最終話8回目。私は5回観ました。その度に優しい風に包まれるような爽やかで、一途で、強い思い、愛に支えられた心地良さを味わっています。
一話ずつ、謎解きの要素や思惑も絡みドラマ作りが見事。
〈愛する夫を残し、フランスの地で交通事故にあって突然亡くなる妻。その妻が主人公。
彼女は夫に一台のスポーツカーを残す。そこにはカーナビの履歴として残した夫への謎のメッセージ。夫は導かれるように旅立つ。〉
そこから妻の切なく、夫への強い愛が一枚一枚の絵画のように描かれていく。一貫して伝わる思い「孤独」。
そのラストの台詞が聞きたくて5回観てしまった私です。
7回目に明かされた妻の無念と切ない願い。
夫が昔、高校生の頃から10年付き合い、お互いの家族からも認められ、結婚を約束していた婚約者が1年アメリカ滞在中に上司からの求愛を受け入れ、子もできる。
しかしそれは後に破局となって彼女は日本に戻っていた。
妻はその彼女に言っていた「残す夫を託せるのは貴女しかいない。こんなこと言うのは本当は嫌なのだが・・・・・・。」と。
だが元フィアンセは「裏切った私にその資格はない」と返す。
そこで妻が放った台詞「裏切りではなく、貴女は捨てたのです!(資格も責任も有る!)あの人は周りの人たちによって孤独になったのです。
あなたにもお母さんにも(捨てられた!)。
それを黙ってあの人は受け入れて来たのです。」(それまでの回で、夫の兄弟、そして両親の離婚とその後の真相が明かされています)
一年後の夫の台詞。「もう、俺は孤独ではない。お前が引き合わせてくれた人にいつでも会えるから。
しかし俺はもうお前には会えない。
それはお前が残した永遠に消えることのない俺だけの孤独なのだ」と。やり切れない、優しさが残ります。