八重山日報コラム
CDやDVDが並ぶ棚に、ずっと気になっていた映画のDVDがありました。
【掲載:2024/06/02(日)】
音楽旅歩き 第235回
「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一
【久しぶりのDVD映画鑑賞。実に面白い】
買ったのは既に10年は経っているでしょうか。観ようと思いながらその勇気がありませんでした。
買った最初に確か数分は観たと思うのですが、冒頭の一種異様な暗い感じがして直ぐに観るのを止めました。
当時は興味を持ちながら、何かしら観るのが怖かったのでしょう。〈引いた私〉です。
そのDVDをやっと観たいと思える気持ちになりました。
それは、2012年アカデミー賞外国語映画賞、スペイン代表。その他多くの賞を受賞した映画「ブラック・ブレッド」です。
スペインの内戦(1936〜1939)後のカタルーニャ。勝ち組と負け組が住む街、ある少年の目を通してその一家を描いた映画です。
エンターテイメントの要素もあり、二時間を観させます。なかなかの監督ではあります。
描かれたテーマは「内戦」という一つの国を分断させてしまう争い。
(しかし、結局それは他国が参戦する抗争でもあり、多くの悲惨な犠牲者を出す殺戮(さつりく)であるのですが)。
この映画で描かれている一家と同じく、内乱時には家族内、隣近所、友達同士が敵味方に分かれて紛争があり、
双方での虐殺行為は悲惨極まりない。
この映画はですからとてもリアリティがあります。
人々の葛藤が映画という手法によって、現実的にひしひしと伝わってきます。
カメラが人々の表情をあらゆるアングルで映し出し、短いカットで迫り、重なり合って緊迫感を作りあげる。
「内乱」が生み出した心の歪みと、富む物と貧しい者の格差も見据える。食事の場面が良い。貧しさの象徴〈黒いパン〉。
「紛争」は悲劇を、憎しみを生むものでしかない。
それぞれの理想を掲げての対立がとてつもなく人間を壊していく。
力に力が対抗する。
一見、それぞれの正当性を信じたい気持ちで「致し方ない」との言葉も浮かぶが、そのような軽い気持の言葉で済むわけがない。
人々に襲いかかる葛藤と抗争は、実に耐え難い愚かな行動を引き起こすだけ。v
人間はいつも同じことをしている。歴史に学ぶことなく繰り返す。人の心も同じ。
繰り返されるのは憎悪であり、嫉妬であり、権力欲。本当に人間は愚かで哀しい。
〈切なさ〉で生きる生物、それが人間なのか?
映画の話に戻ります。処刑を前にして父が子に言うセリフ、「戦争で何より恐ろしいのは、飢えでも、人が死ぬことでもない。
人が理想を忘れて空っぽになることだ」は心に響いた。
「父さんの宝はここ(子の頭を指し)と、ここにある(向かい合っている子供の胸に手を当てる)。
お前はこの宝を大事にしろ」と言い残す。そしてこの映画の憎いところがエンディング。
寄宿学校を訪れてきた母の告白。帰る母の後ろ姿にガラス窓を曇らせる子の息が重なる。母の姿が見えなくなる。
そして子は背を向けて教室に戻る。
バタンと扉が閉じられる。いきなりの〈カットアウト〉、暗転。
見終わってもしばらくは呆然。
久しぶりの「映画タイム」、ドラマは面白い!