八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.251


【掲載:2025/03/23(日)】

音楽旅歩き 第251回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

【「笑顔」が眩しい!人間好きの眼差しが本物の笑顔なのです】

 3月22日土曜日に京都で演奏会。
相変わらず大阪、東京、名古屋、そして京都、と渡り歩いて練習に明け暮れる日々が続いています。
一時は体調不調で出掛けるのも億劫になりがちでしたが、最近は体調も良く、走り回る日々。
私一人で何でも出来ているように見えるかもしれませんが、周りのお世話がなければ出来はしない事ばかりです。
車で送迎してくれる人、健康管理をしてくれる医師、面倒な仕事をコツコツと熟(こな)してくれる仲間。
一つの大きな人の群れが動いている、といった体(てい)です。

 ひとたび指揮に立つと、不思議に体調のことなど一切気にならずに、いや体中が熱くなって練習に没頭してしまう私。
終わると少し疲れを感じるのですが、帰宅する頃には元気になっている。
つくづく私の身体ってステージに立つように作られている、と感心してしまいます。
健康に産み育ててくれた両親に改めて感謝です。

 練習時は団員も「きつい」ものです。
私が新たな課題を要求していくわけですから、直ぐさまその対応が困難な人にとっては苦い顔になるものです。
これは仕方のない事。時には練習場が静まりかえって気まずい空気が流れます。
しかしそのままでは良い結果には繋がりませんから、そこが指揮者の腕の見せ所となります。
私には特技(?)があります。どのような状況にあってもどうも顔は「笑顔」に見えるようなのです。
これは「人間好き」だからこその表情。「人間好き」しかできない表情だと自認しています。
怒っていても笑っている。不満を言っている時も笑顔が見える。
練習場に入ってから出るまで私の笑顔が絶えないように見えるらしいのですね。
休憩中は皆が持ち寄ったお菓子を食べ合い、それぞれに起こった最新ニュースを聞き合う。
そこには底抜けの笑顔が必ずある。

 聴いてみれば、どれも楽しい話だけではありません。
病気の事。知り合いの不幸、仕事の悩みなどが見え隠れします。しかし、誰もが笑顔で話すのですね。
その中心にどうも私が居るらしい。人の集まる所に一人でも笑顔の者が居ると周りに波及していく。
いつしか全員が笑顔での会話、賑やかに声が弾みます。

 まだまだ世相は不安ばかり。物価高、低賃金、気候変動、紛争、戦争危機など、周りは不信に満ちた状況下にあります。
これまでに味わったことのない人類史上初めての事が起こっています。
真っ只中の人々は大きな抵抗も出来ず、静かに生活を送る。何処を見れば良いのか。
観るのはフェイク満載の情報。真実を探ろうにもその指針となる情報が見つからない。
隠蔽(いんぺい)や無視、改竄が蔓延(はびこ)っているらしい世の中。
そこにあって底抜けの笑顔を見ることができるのがスポーツ。熱狂する観客の熱い応援。
テレビのコメンテーターたちの屈託のない笑顔。
サッカー日本代表のアジア最終予選の勝利に沸く今朝のニュース。
ドジャースの大谷翔平を羨望を越えての英雄視。
笑っていられない世相だからこその最高の笑顔でしょうか。
それらを横目にして、ただ喜べない私の強張った笑顔もそこにあるのです。





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