執筆:当間


ハイドン(その4)

<名声について>


ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、この3人は「古典派」の御三家です。
それぞれの生涯は、ハイドン(1732-1809)、モーツァルト(1756-1791)、ベートーヴェン(1770-1827)と、時代が重なっています。そして互いに刺激し合いながら発展していくわけなのですが、その発展の基礎をつくったのがハイドンということですね。

西洋音楽史の流れの中でのハイドンは「交響曲の父」と呼ばれるほどに器楽作品の様式と構成に新しい流れをつくりました。
しかし、最近では以前にも書きましたようにオラトリオとしての「天地創造」、そして「四季」がその代表作であり、それらの曲は集大成としての地位を築いたとの評価が高いです。

彼の一生は「音楽一筋」と言っていいでしょう。女性に対しても周りの男たちから見れば奥手でしたし、あまり執着していたとも思えません。「お金」に関してはしっかりと管理し、彼の作品と同じく計画的で慎重でした。貧しさのドン底などとは無縁な音楽家として大成したといっていいかと思います。
彼は幼いときから注目を集めた存在でした。
彼は美しいボーイ・ソプラノでした。
そのことのためにウィーンの有名なシュテファン教会の合唱隊に入っています。そして女帝マリア・テレジアにも気に入れられています。
後年、ハイドンが41歳のとき、エスターハーザ離宮を訪れたマリア・テレジアのために交響曲を書いているのですが(交響曲第48番ハ長調です。これは「マリア・テレジア」という副題がついています)、その演奏後に女帝に謁見し、幼かった頃の<いたずら>(あの工事中であったシェーンブルン離宮での一件ですね)を披露するなどよい関係が続くのですね。

農家出身で、オーストリアのある片田舎の車大工の息子として生まれたハイドンです。
音楽教育は6歳になって入った合唱隊からです。モーツァルトのような神童としての話は伝わっていません。
後年ハイドン自身が語った「日課」でも解るように、努力という才能に恵まれた音楽家というイメージが強いです。
29歳でハイドンは、ハンガリーの名門、アイゼンシュタットに豪華な宮殿を持つエスターハージ侯爵の楽団の副楽長に任ぜられます。そして34歳で楽長になっているのですね。
一時楽団が解散したりはしましたが、再び帰り咲き、72歳で楽長を辞するまで活躍が続きます。
ハイドンの名声は、この楽団で25年にもわたって楽長職を努めたことでも判るように、人々から絶大な人望を集めていた、という結果です。

楽団が一時解散した時、58歳のハイドンは海を渡りロンドンに向かいます。ここでの成功は圧倒的だったと記録は伝えています。そしてその活躍のために、オックスフォード大学から名誉音楽博士の称号が与えられるのです。
二回目のロンドン訪問は一年おいた1794年、一年間同地で演奏および教授活動を行っています。
この間に交響曲第101番「時計」が初演されています。第二楽章が終わったとたん拍手喝采となりもう一度演奏しなければならないほど熱狂的に迎えられたと伝えられています。

この二回にわたるロンドンでの経験から2大オラトリオが創られた、ということは今まで述べた通りです。
「天地創造」の大ヒットは空前絶後のものだったといいます。
ウィーン初演以来、この曲は西洋ばかりではなく、ロシアにまで急速に広がっていったという音楽史上始まって以来の国際的大ヒットの曲となりました。
多くの人々がその感動を伝えています。特に激動のヨーロッパであったこの時代。
あのナポレオンがこの曲のパリ初演を聴いています。それはテロに合いながらも中止せず劇場に向かうという熱心さでした。演奏後、曲を絶賛し、「あらゆる創造の力は死よりも強いというハイドンの言葉は正しい」と言ったとか。
これはフランスでも評価が高く、数多くの表彰でハイドンを称えていたということが背景にあってのことですが、それ程にハイドンの名声は当時国際的だったということです。
(ハイドンが亡くなった1809年、ナポレオン軍がオーストリアに侵入しています。5月11日ウィーンを占拠したとき、ハイドンは自作のオーストリア国家「皇帝賛歌」を何回も市民を力づけるために弾き続けたといいます。そして31日の早朝静かにハイドンは息を引き取ります。77歳でした)

「四季」は「天地創造」と人気を二分した作品です。
しかし、当時は「四季」の方が少し分がよくなかったようです。
「四季」が演奏された後、ハイドンがフランツ皇帝に尋ねられて答えています。
皇帝「あなたは『天地創造』と『四季』のどちらの方に優位を与えているか?」
ハイドン「『天地創造』のほうでございます」
皇帝「で、その理由は?」
ハイドン「『天地創造』では天使が語り、神について物語ります。しかし『四季』ではシモンが話すだけでございます」

さて、現代ではどうでしょう。
「天地創造」がお好きですか?
それとも
「四季」ですか?
「どちらでもないよ」とはおっしゃらないでくださいね。

「四季」が気に入っていただけるよう演奏したいですね。

「名声について」の項を終わります。


 

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第一回「ハイドンに興味はありませんか?」

第二回「イタズラっぽくラブリーなハイドン」

第三回「<悪妻>と人は言うけれど」