13th-noteを開設して2年が経ちました。
このサイトのコンテンツを2013年に揃えると書いてきたので、ひとまずあと3年です。
これまで、13th-noteにたくさんの方がお越しくださり、たくさんの方がダウンロードして、ご利用くださり、ありがとうございます。

何か更新したり、アップをした後に、ポンとアクセス数が伸びると、やはり嬉しく、素直にまた頑張ろうと思います。これからもどうぞよろしくお願いします。


in der Mathematik giebt es, kein Ignorabimus!【数学にイグノラビムス(無知)はない】

20世紀初頭の大数学者ヒルベルト(1862-1943)による「ヒルベルト問題」(1900)の論文に書かれた、いわば宣言です*1

19世紀後半、科学に限界はあるかないか、という大論争がドイツで起きました。科学限界説を唱えた生理学者デュ・ボア−レイモンが、著書の中で次のように書きました。

"Ignorabinus et ignoramibus."(我々は無知である。そして無知であり続けるだろう)
この「イグラノビムス論争」と呼ばれた論争から20年あまり経ち、ヒルベルトはこれに反旗を翻したわけです*2

そもそも、ヒルベルトは若い頃、ノートに次のようなメモを残していました*3

私は次のように信じる:・・・すべての数学の問題は可解である。

残念ながら、このヒルベルトの夢とも言える壮大な仮定と、それを明らかにする努力は、ゲーデルの不完全性定理によって決定的な打撃を受けて頓挫してしまいます。

しかしそれまでの努力の間に、数学基礎論は発達し、数学の命題を「記号の操作」で行う技術が発達して、現代のコンピューターが登場する下地が生まれました。

そもそも、ヒルベルトは若い頃のノートに、次のようにも書き残しています。

すべての数学の問題は、次の問題に還元できる:0と1のみからなる途切れることのない列

この時のヒルベルトの考えはある意味、現代のコンピューターに結実しているのかもしれません。


数学の基礎に目を向けたのは、ヒルベルトが初めてではありません。

だいたい、数学の議論に明け暮れた古代ギリシア人は、「証明する」ということを考え出した事実一つをとっても、驚異的なほど数学の基礎に目を向けていたと言えるでしょう。
そしてこれによって、幾何学はたいへん当時のギリシアで発展しました。
数学Aの第4章にあるような、平面図形の諸定理の多くは、古代ギリシアですでに知られていました。

また、16,17世紀に数学が大きく発展した時期も、そのような時期がありました。幾何学に方程式を持ちこんで数学を革新的に変えたデカルトは、「精神指導の規則」(Regulae ad directionem ingenii)という著書の中で、『「順序と尺度」について探求がなされる一般的な学問』を「普遍数学」と呼び、その必要性を説いていました。この思想はデカルト以前からあり、また、デカルト以後にもありました。
この頃に、数学は幾何学のみに依存せず、計算技術を発展させました。数学において文字を使って計算することを一般的にし、大きく発展させたフランソワ・ヴィエトの著作『解析法序説』(1591)の末尾には、次の一文が置かれていたといいます*4

「もはや解かれない問題はないこと」(Nullum non problema solvere)

数学が大きく発展する時には、これくらいの大風呂敷が必要なのかもしれません。


数学はこれからどこへいくのでしょうか?
それが私の興味の的です。

ここは一つ、数学の新しい技法を開発して、「もはや数学に解けない問題は存在しない」くらいの宣言をすれば、(もしそれができるならば)いいのかもしれません。

しかし、私の考え方は少し違います。
もう、数学が自分自身を正しいと証明することはできないのです。


数学は、論理的に誤りの無いように構築されています。
数学の世界には、真か偽しかありません。そして、数学は極めて有用なのです。

しかし、私は次のように信じています。

論理的に正しいことは、人間にとって重要である。

しかし、論理的な正しさは、人間の重要さの全てではない。

数学が、人間のすべてを表すことができるとは思えません。
より正確には、数学にとって、論理的正しさが絶対的な基準である以上、人間の重要さの全てを表すことはできないと、私は考えています。


次に来るべき数学は何なのか?
私は、論理的な正しさを超えたところにあるのではないかと考えています。

論理的に正しい、それは当り前。しかし、それに加えて何かが必要、そこには論理も入りきれぬ何かがある。

そういう遠い未来を見据えながら、この13th-noteの充実を図っていこうと思います。


最後に、少しだけ具体的なことを書いておこうと思います。

2013年に、小学算数・中学数学・高校数学の教材を揃えた後は、
2020年を目標に、新たな数学の指導要領を提案できるような、小学算数・中学数学・高校数学・その先の数学のできるところまでを俯瞰した、数学の教材を揃えてみたいと思います。
いくつか、腹案はあるのです。ベクトルのいくつかは、中学で教えられるべきなのではないか、など。

しかし、そのためには、この13th-noteがもっと、多くの人によって支えられていることが必要になるでしょう。

これからも、どうぞよろしくお願いします。

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*1 論文の原文コピーがこちらにあります
*2 ゲーデル「不完全性定理」、林晋/八杉満利子 訳・解説、岩波文庫、p.120,121
*3 「不完全性定理」p.138
*4 林知宏「ライプニッツ 普遍数学の夢」、東京大学出版会

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Last-modified: 2010-11-27 (土) 07:37