今日、多くの便利なツールを無料で使うことができます。インターネット上でのことです。
「こんなことできないか?」と思って検索すれば、無料で使えるツール、いわゆるフリーソフトがたいてい見つかります。本当に便利な世の中です。

しかし私は、本当に無料で使ってよいものか考え込んでしまうことがあります。

ご存じのように、2008年9月以降、世界中でGDPが落ち込み、それが人々の雇用に直撃するなど、多くのニュースとなりました。
現在の社会では、経済が健全であるには、お金を伴う活動は増え続けなければいけません。いわゆる経済成長率が、プラスでないといけません。

一方、フリーソフトの作成・利用が、経済に与えている寄与はすべて間接的です。フリーソフトの作成者・使用者の間には、お金のやりとりが発生しません。
だから、無料で何か公開することは、実は経済を活性化させる上では非効率的ではないかなどと考えてしまいます。
仮に、インターネットで利用できるフリーソフトについて、1種類のダウンロードにつき50円が払われたとしたら、多少は経済が活性化するのではないか。
フリーソフトを作っている人にはちょっとした小遣いになって、消費が伸びて、また雇用が多少増えるのではないか?

そのようなことを考えながら、心配になります。
フリーソフトは、大きな視点で見ると社会を疲弊させていないかなどと考えてしまいます。
無料のものが増え続ける一方、経済規模は増し続けないといけない。この現在のシステムはどのように維持されているのか?歪みが生まれているのではないか?

さて、私は、数学・算数の教材を無料で公開しています。
さきほど、無料公開にはいかがなものか、と書きましたが、教育は例外と感じています。
つまり、子供のための教育は、無償で受けられるチャンスを残しておいた方がいいだろうというのが、私の考えです。十分に教育を受けた人が増えて、次の社会の仕組みを、できるだけ多くの人が快適に過ごせるように作ってくれればよい、私はそう考えています。
逆に、たくさんお金を払わないとよい教育が受けられない仕組みを進めすぎると、社会は階層化され人材の流動性は損なわれ、結局は社会不安につながるでしょう。その不安のはけ口はどんなきっかけでどこに向いてしまうのか?

ここまで、私がどんなものを公開しているのか何も書かないまま、ずいぶんと筆を進めてしまいました。
私がホームページ上で公開し始めている内容は、大きく分けて3種類です。2013年にすべて揃うのを目指しています。
反復練習プリント(小学・中学)
導入テキスト(小学・中学)
数学の教科書(高校)

何ごとも、学び始めには問題量が必要になるでしょう。それに答えるための「反復練習プリント」です。
中学生までは、教科書という形の「自分で読んで理解して先へ進む」だけではしんどいと考え、穴埋め式にして各分野への導入を図ったのが、「導入テキスト」です。
高校からは、数学の教科書です。

しかし、実を言いますと、私が一番作りたいものは、数学の資料集のようなものです。だいたい、他教科にはなんらかの資料集・便覧があるのに、数学にはそれがありません。題材に不足しているかといえば、そうでもありません。
歴史的なものを挙げるだけでも、なんとたくさんの資料があるでしょう。数字が象形文字からアラビア数字に変わるまでを載せたら面白いでしょう。
ルネサンス以前のヨーロッパ、イスラム、古代ギリシャなどの文献(と、その記述の追いにくさ)をうまく並べれば、現在の我々が文字式を知っていることの幸運は一目瞭然となるでしょう。
それに加えて、学校で学習する内容を補うものも多数加えることができるでしょう。
たとえば放物線y=x^2 +2kx +1が、kの変化でどのように変わっていくのか。
分野をまたいで、いろいろな証明を見比べてみたりしても面白いのではないかと思います。
さらに、物理学を初めとした他の分野へ、数学がどのように活かされているのかを集めれば、なんと充実した資料集になるでしょうか。
これらを作るためのイメージは、私の頭の中にはあるのですが、ひとまずは、教科書を作るという経験が私には必要だと感じ、教科書の作成を進めています。

(SGK通信(2009-11)数学月間エッセイ(第4回)より転載・一部省略)

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Last-modified: 2009-08-09 (日) 12:59