つれづれ

2011年2月末の京都大学の入学試験について、aicezukiなる人のカンニングで世の中が騒がしくなっています。

しかし、この京都大学の入学試験では、カンニングよりももっと私を驚かせた事実がありました。
それは、この入試の数学における、問題の激しい易化です。
この易化具合はある意味で革命的であり、私は、京都大学の入試担当者からの強烈なメッセージを感じました。

誠に私の勝手な推測ですが、今回のカンニング騒動によって、自らのメッセージが埋もれてしまっていることを
京都大学の入試担当者は残念に感じていないだろうか。

そこで、(誠に勝手な解釈ではありますが)そのメッセージを代弁するべく、
私なりに、この問題から感じたメッセージを書いてみようと思います。

世の中、ちょっと他とは違った視点の文章もあったほうが面白いかと思いますし。

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【注意】2011年度の京都大学入学試験(数学)を予備知識無しで解きたい人は
解いてから以下を読んで下さい。各問題の内容について具体的に言及しています。
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はじめに

普通、大学の先生は高校生を教えません。
だから、大学の先生が「これなら簡単」と思って出題したが高校生には難しかったり、その逆がしばしば起きます。
しかし、今回の問題はそういうレベルではありません。

この入学試験の問題は、理系の大問5を除き、国公立大学への進学を目指す高校の定期テストで出されるのに、ふさわしい。

ただし、定期テストの場合はたいてい「この問題集のここから出る」と伝えられ出題されます。
大学入試ではそうではありません。ですから、単に「定期テストレベル」と言っても、受験生にとっては印象が異なるでしょう。

とはいえ、です。

問題について1問ずつコメントしようと思います。

文系の問題について

  • 大問1
    • (1)は教科書の標準問題。実際、この13th-noteにある数学Iのp.182、暗記67の(2)とまったく同じ問題(数字は違うが)。
      • 例のaicezukiさんは、この問題の解答を掲示板で求めたらしい。この問題の簡単さ具合が分からないaicezukiさんは愉快犯だろうと、私は思いました。しかしどうやら、そうではないらしい。
    • (2)確率が苦手ではない受験生にとって、カードの枚数が\( n \)枚なら、京大の入試として標準的な問題。カードの枚数が9枚なので、サービス問題。分数の四則計算を間違えないよう注意したい。
  • 大問2、この問題を穴埋め形式にすれば、センター試験を受ける高校3年生に、夏の演習問題として使えそう。
    • または、空間ベクトルの計算問題がやりたい生徒に与えるには、ちょうど良い問題。
  • 大問3、大学入試向けの問題集なら外せない練習問題。
    • ただし、この問題を解くときに使う手法は、なかなか定着しづらい(やった直後は覚えている、少し経つと忘れてしまう)。
  • 大問4、2011年のセンター試験の数学IIBで出題された積分計算の問題とほぼ同レベル。
    • 京都大学の問題には絶対値記号の処理が必要だが、センター試験の問題より易しいことに文字定数はない。
  • 大問5
    • (1)は、\( n \)桁を10桁に代えれば、中堅の中学入試問題としてちょうど良い。
      • とはいえ、中学入試問題は、大人でもなかなか解けない。
    • (2)は、ちゃんと文章の意味を読み間違えず、数列の基礎と対数の基礎ができているなら、計算問題。
      • しかし、数学の苦手な人は、問題文が長い時点で手がつけられなくなることがしばしば。

理系の問題について

  • 大問1
    • (1)は文系の1(2)と同じ。
    • (2)は、定積分の計算問題。数学IIIの教科書で置換積分法を一通り習ったら、確認のため解いておきたい問題。
  • 大問2は、一次変換を学校で習っていて、\( S=\frac12 |ad-bc| \)という公式(13th-note数学II第3章のp.25,26)を使いこなしているなら、早ければ1分、遅くても3分あれば解ける。
    • 解いた後、本当にそれで解答になっているのか不安になり、問題を読み直し解答を再検証することに、5分ほどかけるかもしれない。
  • 大問3は、全国で数校くらい、定積分が期末試験の試験範囲になる高校で、数日後の定期試験に出題されるだろう。
    • そして、何割かの生徒が完答するだろう。
    • そして、テスト返しの時に「実はこの問題は京大の理系の試験問題で…」と先生が言い、クラスがどよめく。
  • 大問4は、全国で数校くらい、数学的帰納法が期末試験の試験範囲になる高校で、数日後の定期試験に出題されるだろう。
    • そして、何割かの生徒が完答するだろう。
    • そして、テスト返しの時に「実はこの問題は京大の理系の試験問題で…」と先生が言い、クラスがどよめく。
  • 大問5は、問題文が気持ち悪いほど親切。しかし、実は、そんなにやわな問題ではない。
    • 京大の問題としては標準的か。唯一、京大の問題の匂いが少しする。内容もきちんと数学IIBの範囲で収められているし。
  • 大問6は、三角形の外心を中学校でやっていた頃ならば、「チャレンジ問題」として【学年だより】などに載せられるにふさわしい(公立の中学校において)。
    • そして、その学年の秀才2人ほどが解いて褒められる。
    • その後、数学が好きな数学の先生が、授業の余った時間で説明し(または秀才に説明させて)、クラスの多くの子供が納得する。
    • もちろん、クラスが学級崩壊を起こしていては無理な話ですが。

勝手に予想した、この入試問題に込められたメッセージ

では、実際にこの入試問題を、受験生はどれくらい解けるのでしょうか?

私が思うに、文系も理系も、受験生は意外と解けていないと思います。
さすがに、平均得点率は半分を超えるだろうけれど。

もちろん、時間を掛ければ多くの受験生がほとんどの問題を解けるでしょう。
しかし、いつもできればテストができるかというと、そうは甘くない。
実力が、きれいに点数に反映されたのではないかと、私は予想します。

そして、京都大学の入試担当者は、そのことが分かってこの問題を出題したと、私は思います。


京都大学の入試担当者は、実際に入学してくる学生の実力を見極め、
教科書レベルの問題を出すのがちょうど良いだろうと判断したのではないだろうか。

難しい込み入った受験テクニックを身につけて入学した学生が大学の授業をまともに消化できないことに憂慮し、
「受験テクニックは要らないから教科書の問題を解けるようにしてくれ」
そういうメッセージを発したかったのではないかと、私は思います。

私が「易化具合が革命的」とまで書いたのは、このメッセージは
今の大学入試のやり方に対する問題提起を意図しているのではないかと感じるからです。
受験テクニックで対応できる程度のやり方で、これからの日本は大丈夫なのか?

考えすぎかもしれませんけれども。
または、受験テクニックの弊害はわりと普通の主張なので、もっと重大なメッセージが込められているかもしれませんけれど。

いずれにせよ、日本中の秀才が集まる大学の数学の入試問題で、理系でも文系でも、教科書レベルの問題が多数出題された事実は
もっと広く世の中で知られるべきではないかと私は思いました。


大学受験の数学から離れている方々には意外に思われるでしょうが、
難しい問題ばかり解いている学生は、意外と、教科書に載っている基本問題が解けません。
なぜか?
普段解いている問題と違うからです。

普段は難問ばかり見ている人には、数学の問題を解くときに使っている思考回路が、使えなません。
そこで基礎がきちんと分かっていれば、すぐに軌道修正できるが、
難問にケースバイケースで対応しているだけの生徒は、手が出ません。


京都大学の入試担当者は「基礎でいいからきちんとできていてくれ」と意図し出題しました(と私には感じられる)。
しかし、基礎がない一学生が、カンニングで他人に解答を聞きました。
聞いた問題は教科書レベルの問題。

ちゃんと、入試担当者の意図(と勝手に私が感じている内容)には反しない結果になりそうだから、良かったのじゃないでしょうか。
しかも、大学入試のあり方についての議論が、入試担当者の意図(と勝手に私が感じている内容)よりもずっと広範囲で行われるようになりますし。

カンニング問題については、これ以上は深く突っ込んで書かないことにしようと思います。


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Last-modified: 2013-04-27 (土) 23:28